
永久に・・・ 【9】
||| エピローグ |||
リリーはザールブルグを囲む外壁にもたれて、空を見上げた。
もう日はすっかり暮れてしまっている。
夜空には満天の星と、刃物のように細い三日月が浮かんでいた。
リリーはあの三日月はまるでウルリッヒのようだと思う。
刃物のような凛とした強さと、ガラス細工のような儚さ。不安定な相反するその在り方。
それでも夜道を照らす光は、とても優しい。
その時ガサガサと音がして、馬を引いたウルリッヒが現れる。
「シュヴァルツ・シュテルン」
『黒き星』の名の通り、闇夜を化身したようなその黒い肢体と、額の部分にそこだけまるで染め抜いたかのように、白く光るひし形の星。
他の馬より一回り大きな体は、ウルリッヒが乗るにふさわしい風格を備えている。
いつ見ても美しいその姿に、リリーは感嘆のため息を漏らした。
「私の大切な相棒だからな。こいつだけは手放せなかった」
ウルリッヒが大切そうにその首筋を撫でる。
確かに過酷な旅路を物語るようにウルリッヒの服装はだいぶくたびれているというのに、シュヴァルツ・シュテルンは毛並みの乱れもない。きっとリリーを探して旅をしている最中も、馬の手入れだけはしっかりしていたのだろう。
なんとなくリリーはおもしろくないものを感じる。
「あたしはどうなんですか」
拗ねたように言うリリーを、ウルリッヒは掠めるような口付けであやす。
「お前は私の大事な伴侶だ。他に比べるべくもない」
相変わらずのウルリッヒの臆面もないセリフに、リリーは思わず照れ笑いを浮かべる。
そんな事で簡単に機嫌が直ってしまうあたり、自分は結構単純な人間かもしれないとリリーは思う。
「さあ、そろそろ行くか」
ウルリッヒはリリーを持ち上げて馬に乗せると、自分も鐙に足をかけて、その後ろにひらりとまたがる。
「どこへ向かう?」
手綱を取ったウルリッヒがリリーの耳元で囁く。
「とりあえず、南へ!」
ピッとリリーは行く先を指し示す。
「ハッ!」という掛け声と共にシュヴァルツ・シュテルンは南に向けて走り出した。
夜の空気は冷たいはずだというのに、寄り添う体はとても温かくて。
ふと見交わす視線はとても穏やかだ。
離れていた間の事は特に語らない。
思い出したように時々交わされる会話も、取り留めもない話ばかり。
それでも。言葉を交わさなくても、すべては触れ合った部分から伝わるような、
割れたかけらを再び合わせたかのような、
一緒にいるだけで妙にしっくりとくる、この感じ。
昔は感じられなかったこの感覚を得るために、この別れの時間が必要だったのだろうか。
でもこれからは離れることなく共に駆けていこう。
永久に・・・。
||| END |||

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