星 空



テラスへと続く扉を開くと、そこには満天の星空が広がっていた。
1年前と状況はこんなにも変わったというのに、星空は何も変わらない。
「綺麗ね」
ヴィンフリートが一足先にテラスの端まで駆けていったフィーリアに追いつくと、彼女は空を見上げたまま呟いた。
「ええ。1年前のあの日と同じですね」
「あの日はもっと風が強かったけど」
ドレスの裾をはためかせるほど強かった風も、今日は頬を撫でる程度だ。
その時の事を思い出し、ヴィンフリートは思わず笑みを漏らした。
「そういえば、あの時、あなたは私に風よけになれと無茶を仰った」
ヴィンフリートがからかう様な視線を向けると、フィーリアは抗議するように視線を強める。
「だって、せっかく一緒に見に行ったのに、こちらに寄らぬほうが、とか言うんですもの」
「私としては風邪をひかぬ様、気を使ったのですがね」
これ見よがしにため息を漏らすヴィンフリートに、フィーリアは小首をかしげた。
「だから腕の中に入れてくれたの?私はヴィンフリートの体の影に立たせてもらおうと思っただけなのだけれど」
そこまで言って、フィーリアは何かを思い出したようにくすりと笑うと、両手で頬杖を付いて再び星空を見上げるた。
「・・・でもあの時、急に抱きしめられたから、すごくドキドキしたわ」
その胸の広さに、もう幼馴染の少年ではないのだと、初めて気づいた。
「私もですよ」
星空を見上げるフィーリアの体に、ヴィンフリートはあの時と同じように、背後から腕を回す。
この柔らかな感触と甘やかな香りに、もう幼馴染の小さな少女ではないのだと、初めて気づいたのだ。
・・・いや、本当にそうだろうかと、ヴィンフリートは自問する。
実はもっと前から気づいていたのかもしれない。
ただ無意識に気づかない振りをしていただけで。
フィーリアの言う通り、風よけになるだけなら、抱きしめる必要などなかった。無意識にそうしたのは、フィーリアに触れたかったからではないのか・・・。

二人はあの日に思いを馳せる。
あの日二人で星空を見なければ、今日再びこうして二人で星空を見上げることもなかっただろうか・・・。
「ねぇ、ヴィンフリート」
「なんですか」
「今もドキドキしてる?」
ヴィンフリートが僅かに笑う気配がして、回された腕に力がこもる。
「していますよ。・・・あの時よりも、もっと」
「私もよ」
フィーリアはヴィンフリートの方に向き直ると、僅かに冷たくなった頬に熱を移すように、両手で包み込む。
「大好きよ、ヴィンフリート」
「フィーリア」

恋人達の逢瀬を邪魔するまいと、月も雲の陰へと顔を隠す。
星だけが輝く中、二人は唇を重ねた。


2007/09/17