いたずら




「Trick or treat?」


「何だ、それは?」


いきなり執務室に押しかけて来たと思ったら、開口一番謎の呪文を投げかけられ、隼人は眉を顰める。
そんな隼人を楽しげに見やって、妖ノ宮は得意げに人差し指を立てた。


「今日はハロウィンという異国の行事の日なんですって。さっきのはお菓子をくれないと、いたずらしちゃうぞっていう意味だそうよ」


ふむと唸る隼人に、だからTrick or treat?と言って、妖ノ宮はにこにこと微笑む。甘いもの好きでもない隼人がお菓子など常備しているはずもなく、二者択一といっても答えはすでに出ているようなもの。
さて、いついたずらを仕掛けようかと妖ノ宮が思っていると。


「手を出してみろ」


予想外に言われて素直に手を出せば、その上に宝石の様な色とりどりの飴の入った硝子の瓶が乗せられる。


「先日武煙の商人が置いていった物だが、以外な所で役に立つものだ」


したり顔の隼人と手の中の硝子瓶   それを交互に見つめて、妖ノ宮は複雑そうな表情を浮かべた。異国のお菓子を食べられるのはうれしいが、いたずらが成功しなかったのは何だか悔しい。
そんな妖ノ宮の様子をおもしろそうに見つめていた隼人は、ふと思いついたように口を開いた。


「Trick or treat?」


「え?」


「やられたままというのは主義ではないのでな。さて、どうする?」


どうすると言われても、いくらお菓子が好きとはいえ、出歩く時までは持ち歩いていないし、もちろん今もらった飴を差し出しても納得などしないだろう。
困った様に視線を向ければ、隼人は心底楽しそうに、人の悪い笑みを浮かべた。


「では『いたずら』だな」


反論する間もなく抱き寄せられ       




数分後。


「ずるいわ」


自分が仕掛けようとしたのと同じといっても、次元が違いすぎるいたずらに散々翻弄され、ぐったりした体を隼人に預けたまま、妖ノ宮は抗議するように呟いた。





2008/10/31