First Love


(なぜだか避けられているような気がする・・・。)
パタパタと落ち着きなく動き回るリリーの姿を目の端で追いながら、ウルリッヒは僅かに眉をひそめた。
リリーと付き合うようになって半月ほど。
ようやく想いを交わしたというのに、リリーはといえば、たまに街中や城門前で会っても、急いでいるからとすぐにその場を去ってしまうし、今日はようやく休みを取る事が出来、せっかく1日一緒にいられるというのに、なんだかんだと理由を付けては、すぐに席を立ってしまう。
ウルリッヒの向かいの席に置かれたお茶は、ほとんど手をつけられないまま、すっかり冷めてしまっていた。
(何か嫌われるような事をしたのだろうか・・・。)
今までの事を振り返ってみるが、特に思い当たる節はない。
そもそも、ここの所仕事が忙しくて、嫌われるような事をするほど会ってはいないのだ。
(それこそが問題なのか)
会わないうちに気持ちが冷めてしまった、とか。
鬱々と考えに沈んでいると、リリーがようやく戻ってきた。
「あははっ。すいません、お待たせしちゃって」
向かいの席に腰を下ろす。
しかしその途端、居心地悪げに視線をキョロキョロとさ迷わせると、
「あ、お茶のお代わり入れますね」
と言ってまた席を立つ。
ウルリッヒももういいかげん限界だった。
パタパタとキッチンへ向かうリリーに大股で歩み寄ると、行く手を遮るように、バンと壁に手を付いた。
そして反対側にも。
ウルリッヒの腕に囲い込まれてしまったリリーは、困ったようにウルリッヒを見上げる。
そこには怒っているような、傷ついているような、複雑な色をした瞳があった。
「なぜ避ける」
「別に・・・避けてなんか・・・」
ウルリッヒの強い視線を受けて、リリーは気まずそうに視線を逸らした。
それがウルリッヒの心に強い痛みをもたらす。
「私の事が嫌いならば、そう言えばいい。別に気持ちを押し付けるつもりはない。そうやって避けられるほうがよほど辛い・・・」
「き、嫌ってなんか・・・!」
切ないウルリッヒの呟きに、リリーは慌ててウルリッヒを見上げた。
「・・・ウルリッヒ様の事は・・・大好き・・・です」
「ではなぜ避けるのだ?」
「避けてるわけじゃなくて・・・。あたし・・・こういうの初めてだから・・・。
ウルリッヒ様の前にいると・・・どうしたらいいかわからなくなって・・・」
なんとなく避けるような格好になってしまったという事らしい。
しかしウルリッヒにはよくわからない。
「別に今までも2人でいる事はあっただろう」
街外れや教会で会った時に話をしたり、2人で採取に行く事もあったのだ。
何が違うというのだろう。
「あたしが一方的に思ってるだけの時は、普通でいられたんです。
でもウルリッヒ様もあたしを・・・って思うと、すごく意識しちゃって・・・」
つまりはすべてがウルリッヒを愛しく思うが故、という事だ。
今まで散々思い悩んでいたのは、いったい何だったというのだろうか。
ウルリッヒの口から思わず笑いが漏れる。
「わ、笑わなくても・・・」
自分のお子様振りを笑われたのかと、顔を真っ赤にして半べそを欠いているリリーに、ウルリッヒは笑みを向ける。
「いや、自分の事を笑っていたのだ」
「?」
ウルリッヒはリリーの手を自分の左胸に導いた。
「・・・ドキドキしてる」
「あぁ。私とて愛する者を前にすれば胸も高鳴るし、素っ気無くされれば嫌われたのかと思い悩みもする」
「あ・・・」
今まで自分の事で精一杯だったリリーだが、今ようやく自分の行動がウルリッヒを傷つけていた事に気付く。
「皆同じだ。愛する者を目の前にすれば、いつでも、何度でも」
「同じ・・・」
「だから別に思い悩む事などない。したいようにすればいいのだ」
「したいように・・・?」
「何がしたい?」
「一緒にいたい、です」
「それから?」
「いっぱいお話して」
「あぁ」
「・・・・・・・・・・」
「後は?」
「・・・・・・・・・わからないです・・・」
「そうか。・・・ならば私は」
壁に付いていた手をリリーの腰に回し、その体を引き寄せる。
「こうしてお前を抱きしめたい」
そしてとウルリッヒはリリーの頬を大きな手で包む。
「お前に触れたい」
ウルリッヒはリリーの額に口付けを落とした。
「リリーはどうだ?」
「・・・・・・わからない・・・」
「では嫌か?」
「・・・嫌じゃ・・・ないです・・・」
「それはしたいということだ」



こうして無事誤解の解けた二人は、その日1日いちゃいちゃして過ごしたそうだ。



そして、それ以降。
「ウルリッヒ様、ちょっと待ってください!」
「なぜだ?嫌ではないのだろう」
「い、嫌じゃないですけど〜!!」
リリーの姿を発見するたび、たとえ通りの真ん中であろうと、人目をはばからず熱い抱擁をするウルリッヒに、
(嫌じゃないけどTPOはわきまえてください〜!!)
というリリーの心の叫びが届く日は永遠に来ないようだ。



2002/03/14