Brains Game



ただいまフラムの調合中。
爆発物だから配合を間違えたら大変。
計量用の匙を使って、慎重に、慎重に・・・。
・・・しなきゃいけないのに、手が・・・震える。
だって・・・。



リリーはちらりと横に視線を走らせる。
するとそこにはへーベル湖の色をした瞳があって、じっとこちらを見つめていた。
そして目線が合うと、甘い微笑を浮かべる。
その瞬間、一気に早まる鼓動。
体温が上昇する。
あの笑顔が脳裏にちらついて、ちっとも集中できない。
調合どころではなかった。
しかしやらなければ後で困るわけで・・・。
ザクザクと燃える砂を匙でつついていたリリーは、なんとかこの状態を打開すべく、思い切って口を開いた。
「あの・・・ウルリッヒ様?」
「どうした?」
ウルリッヒはようやく飼い主に構ってもらえた犬のように、とてもうれしそうに微笑む。
「あの・・・ですね」
こんな顔をされては直球で「じっと見てられると、やりにくいんですけど」などと言えるはずもない。
しかしこのままでは困るのだ。
リリーは心を鬼にして、何とか婉曲的な言葉を捜す。
「暇じゃ・・・ないですか?」
「いや。リリーの姿を眺めているだけで楽しいが?」
今まで調合の邪魔をしてはと控えていたのだが、手が止まったのを幸いと、ウルリッヒは手を伸ばしてリリーの髪にそっと触れる。
「お仕事とか残ってるんじゃ・・・」
「ああ、今日はすべて片付いている」
その髪にやさしく口付けを落とした。
「それじゃあ、お茶でも・・・」
頬を大きな手が包み込む。
「あの」
見尻に唇が触れる。
「だから」
今度は額に。
「その」
次は頬に。
「えっと」
瞼に。
「あ・・・」
そして唇に。
ついばむような軽い口付けに、すべてはどうでもよくなっていき、吐息も混じる深い口付けに、やがて唇が離れてしまう時が来るのが厭わしいとすら思えてくる。
思考が霞んで、体が痺れて、魂まで吸い取られてしまいそうな。
そんな口付け・・・。


長い間重なっていた呼吸が離れて、気だるい吐息が漏れる。
力の入らない体を、広い胸に抱き寄せられた。
「それで?」
ウルリッヒの美声が耳元で響く。
それで、ってなんだろう?
リリーはウルリッヒの言葉の意味が分からず、霞みのかかった頭で考える。
「何か言いたい事があったのだろう?」
その声には少しだけ笑いが含まれていて。
それでリリーはすべてを悟る。
もちろんそうとわかれば、さっきとはまったく別の『言いたい事』は色々あったが、もうそんな事はどうでもよくて。
でも少し癪だったから、ウルリッヒの首筋を甘噛みした。
ウルリッヒは笑って頭を軽く撫でると、そのままリリーの体を抱え上げる。
廊下に軽やかな足音が響き、寝室のドアがぱたりと閉じた。



そしてこれから後は大人の時間・・・。



2001/12/17