てのひら


ウルリッヒは二人掛けのソファーに座って本を読んでいた。
リリーはその足元に座り込み、同じく錬金術の本をめくっていたが、ふとウルリッヒを見上げる。
この国のすべての女性を魅了する瞳は少し伏せられて、本に綴られた文字を追っている。
軽く組まれた長い足。
その上に乗せられた革張りの本を、右手がゆっくりとめくっていく。
そして、ソファーの上に投げ出された左手。
その容姿には似合わぬ、少しごつごつとした手。
節くれだって、傷跡の残る、戦う男の人の手だ。
そして薬指に光る、銀の指輪。
装飾品類を嫌う彼が唯一身につけてくれる、愛の証。
リリーはそっと手を伸ばして、その指輪をなぞってみる。
その様子をウルリッヒは本から目を離し、眺めている。
視線を感じてリリーが見上げると、ウルリッヒは微笑んでリリーの手を握る。


リリーの手をすっぽり包んでしまう、大きな手。
暖かい手。
守ってくれる手。


リリーはウルリッヒの膝に頭を持たせ掛けると、静かに目を閉じる。
ウルリッヒは再び本に目線を戻す。


手はつないだまま。


ありふれた幸せな時間。



2001/08/25