
すきなもの
真っ白なテーブルクロスの上には、湯気を立てたおいしそうな料理が並んでいる。
決して料理店で出るような華麗な物ではないが、家庭的な雰囲気の料理は料理人の作った物よりも食べる物の心をくすぐる。
並べられた料理を満足げに眺めていたウルリッヒは、それらが味も絶品であることを知っている。
最後にデザートのアップルパイを運んできたリリーは、ふと思いついたことをウルリッヒに尋ねてみた。
「そういえば、ウルリッヒ様の一番好きなものってなんですか?」
好き嫌いがないことは前に聞いたが、特に好きな物については聞いていないのを思い出したのだ。
ウルリッヒはリリーを見上げて、フッと目を細める。
「おまえ、だが?」
リリーの顔が一気に赤く染まり、危うくアップルパイを取り落としそうになる。
「そうじゃなくて・・・好きな食べ物っ!」
実はわかってて言ってるんじゃないだろうかと思いつつ、リリーは照れ隠しに少し怒った声で言う。
そんなことは気にも留めずにウルリッヒは微笑みながら、
「リリーの作る物はすべて好物だな」
などと言うので、リリーは火照った頬を抑えながら、ウルリッヒ様って実はすごくタラシかも・・・と思ってしまう。
すると、ウルリッヒはリリーの手からアップルパイを取り上げてテーブルに置き、ずいと身を乗り出す。
「そういうおまえは、どうなのだ?」
「あたしは・・・ペンデル・・・かな?」
目をそらしつつリリーが答えると、ウルリッヒがおもしろそうに目線でそうではなくて?と訴えてくる。
やはり、はぐらかされてはくれないらしい。
ウルリッヒは自分がそういうことを口にするのに抵抗がないせいか、リリーにもそういうことを言わせたがる。
しかしリリーは未だそういうことを口にするのが恥ずかしくて、いつも困ってしまうのだ。
それを顔を真っ赤にして訴えてみるが、やはり聞いてもらえそうにないので、思い切って口を開く。
「・・・ウルリッヒ様です」
するとウルリッヒがうれしそうに微笑む。
そういう時のウルリッヒの顔は本当に幸せそうで、リリーは少しだけ言ってよかったかなと思う。
ウルリッヒは立ち上がってリリーを背後から抱きしめると、首筋に顔をうずめる。
「私が愛しているのは、お前だけだ。リリー」
背中越しに伝わる体温より、熱い囁き。
リリーは抱きしめてくる力強い腕に手を添えて。
「私も・・・。ウルリッヒ様だけです」
2001/08/25
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