とまどい


「美しい瞳だ・・・」
何度言われても慣れることはない、甘い言葉。
そしていつものように跳ね上がる心拍数と、真っ赤に色づく顔。
その様子を見て、ウルリッヒが笑い声をもらす。
「もうっ!ウルリッヒ様ったら!」
からかわれたのだと思って、リリーが上目使いに抗議の意思を示す。
「すまない。別にからかったつもりがないのだが。リリーはいつまでたってもこういうセリフで真っ赤になるのでな。」
いとしいな・・・などと思っていたのだ、と言いながら、ウルリッヒは膝の上でグーになっているリリーの手をとると、手の甲に唇を押し付ける。
おかげで少し治まりかけていた顔のほてりが、一段と悪化してしまう。
ウルリッヒ様って、こういう恥ずかしい事、平気でするから参っちゃうのよね〜。
リリーはウルリッヒに気付かれないように、そっとその顔を見つめる。
さらさらの金色の髪。へーベル湖のように深く澄んだ瞳。ザールブルグ中の女性の憧れの人。
これだけの美形にうっとりするような笑顔で極甘なセリフを言われたら、
平静でいろっていうほうが無理である。
もちろん好きな人にそういうことを言われたり、されたりするのはうれしいんだけど。
うれしいけどっ、うれしいけどっ・・・心臓に悪いのよ〜!
あはは・・・と思わず乾いた笑いが漏れてしまう。
「どうかしたのか?」
ウルリッヒが指先に唇を落としながら上目遣いにたずねてくる。
「いえ、ウルリッヒ様って初めの印象はクールな感じだったのに、結構情熱家なんだなぁって・・・」
現状を直視すると、さらに血圧があがってしまいそうなので、目線を落としたまま、なるべく平静を保って口を開く。
「そうか?昔から直情型だといわれるが。・・・それに、これでもわりと抑えているほうなのだがな。」
これで抑えてるって、これで抑えてるって・・・全開だと、どうなっちゃうわけ〜!
リリーは思わずくらくらしてしまう。
すると、その心の叫びが聞こえたかのように、ウルリッヒがリリーの腕を引っ張り、その胸の中に閉じ込める。
「教えてほしいか?」
耳元で低く艶を含んだ声でささやく。
リリーの背筋をゾクゾクっと未知の感覚が通り抜ける。
心拍数がさらに跳ね上がり、恋愛にはめっぽう疎い思考回路がパニックに陥る。
そしてついに・・・ブチっと強制切断されてしまったのであった・・・。


2001/08/20