遭遇戦/
ヴェルナーさんとリリーさん


「よう、リリー。どこ行くんだ?」
あたしはちょうど工房の扉を閉め、歩き出そうとした所で背後から声を掛けられ、振り返る。
「あぁ、ヴェルナー。ちょっと調合するのにニューズが足りなくなったから、近くの森まで行ってこようかと思って。ヴェルナーこそどうしたの」
「俺か?俺は今日は店をやるのも飽きちまったし、何かおもしろい事でもないかなぁと思ってな」
ブラブラしてたところだ、と悪びれもせずに言うヴェルナー。
「飽きたって・・・まったくもう」
相変わらずいいかげんなんだから。でも生真面目なヴェルナーなんてヴェルナーらしくないから、これでいいのかもと思ってしまうあたり、あたしも結構毒されちゃってるのかしら。
なんて思っていると、ヴェルナーは顎に手を当ててなにやら思案顔。
「近くの森か・・・」
そうだけど。・・・あぁ、そのいたずらを思いついたガキ大将みたいな笑みは何?ヴェルナーがこういう笑い方をする時って、ろくな事考えてないのよねぇ。
「よし」
なによぉ。
「ちょうど暇を持て余してたところだしな。俺がいっしょに行ってやる」
ええっ!一緒にって・・・。それは困るわ。絶対ダメよ。だって・・・。
「賃金・・・払えないわよ」
あたしは思わずじと目で呟いた。
そう。あたしはさっさとニューズを手に入れて、メガクラフト10個をハインツさんの所に納品しないと、お財布の中には銀貨20枚しか入ってい、とほほな状態なのよ。ヴェルナーを雇うなんてどう考えたって無理。
「あのなぁ・・・」
やっぱりヴェルナー呆れ顔だわ。だってしょうがないじゃない。あたしには扶養家族が3人もいるのよ。そのうち2人は育ち盛りなのよ。(もちろんあたしもだけど。)それを女の細腕1本で4人分の食い扶持稼がなきゃいけないのよ。この苦労が独り者のヴェルナーなんかには、わかるもんですか。
思わずよよよっと泣き真似をするあたしの耳に、ヴェルナーのため息が聞こえる。
「俺がそんなにみみっちい男に見えるか」
え?賃金払えないって言ったから飽きれてるんじゃないの?
「暇つぶしなんだから、ただで付き合ってやるに決まってるだろう」
「ほんとにっ!?」
「あ・・・あぁ」
思わずヴェルナーの手を両手で握り締めてキラキラ瞳を輝かせるあたしに、ちょっと引き気味のヴェルナー。でもそんな事どうだっていいわ。
ただ!タダ!!無料!!!・・・あぁ、なんて素敵な言葉v
試供品だって試食だってタダでもらえる物なら何でもいただくわ。
セコイってあなたねぇ、奇麗事を言ってて銀貨15万枚なんて大金が溜まると思う?
絶対無理よ。実際やってるあたしが言ってるんだから間違いないわ。
って、あたしは一体誰と話してるのかしら。今はとりあえずニューズよ。
「じゃあ、行きましょうか、ヴェルナー」
ヴェルナーの腕にさりげなく自分の腕を絡めて、街外れに向けて歩き出す。
え?だってせっかくただで捕まえた護衛なのに、気が変わったとか言われたら困るもの。逃げられないようにしっかり捕まえておかないとね。
ん?でもヴェルナー、なんか顔が赤い?どうしたんだろう。
もしかして風邪?大変っ。
だってせっかくただで雇ったのに、行った先で風邪で倒れられたら、意味ないじゃない!(リリーさん、鬼です・・・)
「ヴェルナー?」
思わず潤んだ目で心配そうにヴェルナーを見上げると、ますます顔が赤く・・・。
あぁ、大変。やっぱり熱があるのかも。だったら出発前に工房にある常備薬でも栄養剤でも解毒剤(?)でも飲ませて完治してもらわないと。
でも、その前にまずは熱を測らないといけないわよね。
あたしはヴェルナーの前に回りこむと、シャツの胸元を掴んでちょっと顔を引き寄せて、それでもちょっと足らないから背伸びをして、ヴェルナーのおでこにあたしのおでこを付けてみる。
ん、熱はないみたい。
安心してそのままの体勢でヴェルナーを見上げると。
あれ?熱はないはずなのに、ヴェルナーの顔がさらに真っ赤???
思わず至近距離にあるヴェルナーの顔をじっと見つめる。
すると急にヴェルナーはあたしの両肩を掴んで顔をぐいと引き離した。
そしてあたしの手を掴むと、エルザも真っ青の速さで街外れに向けて駆け出す。
なーんだ、ヴェルナー全然元気じゃない。しかもやる気満々?これは1年分ぐらいしっかり採取してこなくっちゃv


大変ご機嫌でヴェルナーに連行されていくリリー。
一方のヴェルナー。
「そうか、リリー。お前もそんなに俺の事が・・・。今夜は星空の下で一晩中・・・。今日は寝かせないからな、リリーっ」
そう。ヴェルナーは違う意味でやる気満々だった。



戦闘終了。


||| Atention || このお話はクルリリ創作「いつもの笑顔で」と微妙にリンクしています。


2001/10/23