
いつもの笑顔で
「クルトさん、何怒ってるんですか?」
「どうしたんですか、急に?」
いつものような口調でいつものような笑顔を向けてくれるクルトさん。
でもなんだかいつもとは違う気がする。
「なんとなく、機嫌悪いですよね?」
「別にそんな事はありませんが」
ほらね。
口調はいつもと変わらなくても、なんとなく声に刺がある。
「やっぱり怒ってるでしょう?」
「別に怒ってなどいませんよ。先日あなたがヴェルナーさんと二人で楽しそうに街の外に出かけて行って、数日帰らなかった事など」
怒っていませんと言いながら、きっちり理由を口にするクルトさんの言葉を聞いて、あたしはようやくクルトさんの不機嫌の理由に得心する。
あぁ、あれね・・・。見られちゃってたのか。
あの時はちょっとニューズがほしくて近くの森に行こうとしたら、道端でばったりヴェルナーと会ったのよね。
で、近くの森に採取に行くっていったら・・・。
「あれは頼んでもいないのに、ヴェルナーが勝手に暇だから一緒に行くって・・・」
そう、あたしは別に護衛なんて雇う気なかったのよ。
それなのに・・・って。あぁ、ダメだわ。聞く耳持たずって感じね。
クルトさんってこう見えて、実はけっこう独占欲が強い。
あたしが他の冒険者と採取に行ったりするのは嫌みたい。
別に近くなら護衛はクルトさんでも問題ないんだけど、やっぱり強いモンスターが出る所なんかだと、ウルリッヒ様やゲルハルトに頼むこともあるわけで・・・そうするとクルトさんの機嫌はすこぶる悪い。
でもそういうのは適材適所というものがあるから、こればっかりはどうしようもないんだけど・・・。
クルトさんの機嫌はそう簡単には直りそうもないみたい。
仕方がないから、こうなったらこういう時の必殺技。
「クルトさん」
笑顔で名前を呼んで背の高い神父様の首に両手を回す。
そうして、少し背伸びをしてKiss。
「大好きです」
と、とびっきりの笑顔で。
「まだ怒ってますか?」
「だから怒ってなどいないと言っているでしょう」
そういうクルトさんの声は、さっきまでと違って朗らかで。
無事、作戦成功みたい。
クルトさんの首に手を回したまま微笑むあたしの体に、クルトさんの見かけよりたくましい腕が回される。
その笑顔はいつもの自愛に満ちた神父様の笑顔ではなく、あたしの心を溶かしてしまうような甘い微笑み。
「私もいつもあなただけを想っています」
見交わす視線。
互いの顔に自然に浮かんでくる、至福の笑み。
そしてあたしはもう一度背伸びをして、神父様と口付けを交わした。
||| Atention || このお話はヴェルリリ創作「遭遇戦 ヴェルナーさんとリリーさん」と微妙にリンクしています。
2001/10/23
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