||| 約束の場所 |||




クーガーがフレリア領内を哨戒していると、突然相棒の飛竜が鳴き声をあげた。
「どうした、ゲネルーガ?」
クーガーがその視線の先を追うと、先の戦いで焼け野原となってしまった平原にポツリと人影が見える。
この辺りには民家もなく、焼け焦げた野原で特にすることがあるとも思えない。
敵兵の可能性もあると、クーガーは手綱を引いて高度を下げ、少し離れた場所へと降り立った。そして相棒を待たせ、一人先ほど人影が見えた辺りに慎重に近づいていく。すると、その後ろ姿に見覚えがある事に気付いて、クーガーは足を速めた。
「姫?」
背後から声をかけると、しゃがみこんでいたターナは立ち上がって微笑む。
「クーガー、こんなところでどうしたの?」
「いや、偵察中にこんな所に人影が見えたから、確認に下りたんだが・・・。姫こそこんな所で何をしてるんだ?」
「・・・種を撒こうと思って」
「種?」
クーガーが問い返すと、ターナは頷いて昔を懐かしむように目を閉じた。
「前にね、ここにピクニックに来た事があるの。緑の草原に野の花が咲き乱れて・・・とても綺麗な所だったわ。・・・だから戦いが終わって最初にここを通りかかった時、とても悲しかった」
そう呟いて目を開いたターナは、今は見る影もない景色に一瞬切なそうに目を細めたが、やがて思い直したように微笑んだ。
「でもね、国を立て直す為にがんばっているエイリーク達を見ていて、悲しんでばかりいても仕方がないって気付いたの。そんな暇があるなら、少しでもわたしの出来ることをしよう、って」
ターナは元のようにそこにしゃがむと、小さなスコップで再び地面を掘り始める。
「だから種を撒きに来たの」
そう言って一生懸命土を掘るターナの姿にクーガーは笑みを漏らすと、その傍らに膝をついて手を差し出す。
「俺も手伝ってもいいか?」
「本当?ありがとう、クーガー」
ターナははじけるように笑った。

クーガーが受け取ったスコップで焼け焦げた地面を掘り返すと、ターナはそこに種を蒔いて水をかける。
そうして日が傾く頃には、焼け焦げた野原の一角に小さな花壇が出来上がった。
「ここから緑が広がって、早く元のような草原が戻るといいな」
「ええ。・・・ねぇ、クーガー」
「なんだ?」
「そうしたら・・・一緒にピクニックに来ましょうね」
見上げて微笑むターナに、クーガーも笑みを返す。
「・・・あぁ、そうだな」
「約束よ?」
差し出された小指にクーガーは自らの小指を絡める。
「あぁ、約束だ」




2005/01/03