||| 価値あるもの |||



「隊長」
そう、よく通る声で呼ばれるのは何日ぶりだろうか。
振り返った先に、人波の間に揺れる赤紫色の髪を見つけて、知らず知らずのうちに笑みが漏れる。
「よう、マリカ。今回の仕事は無事終わったのか」
「終わった」
「怪我はないか」
「ない」
「報酬はちゃんと貰ったか」
「貰った」
「そうか。ご苦労さん」
自分の質問に一々生真面目に答えるマリカに、ジストはそう言って労を労うと、無意識に手を伸ばして、その頭一つ分低い位置にある彼女の頭を撫でる。
するとマリカがこちらをじっと見上げているのに気付いて、ジストは手を止めた。
「あぁ、すまねぇ。ガキ扱いされてるみてえで嫌だったか」
ジストが手を退けようとすると、
「違う」
マリカは言って小さく首を振る。
「ん?」
「嫌じゃない。・・・もっと、してほしい」
視線を落として、ぽつりと呟く。
マリカが何かをしてほしいなどと言うのは珍しい事で、ジストは乞われるままに引き掛けた手を戻すと、もう一度マリカの頭を優しく撫でた。
するとマリカは視線を落としたまま、はにかむ様に笑う。
その姿に無性に愛しさがこみ上げてきて、ジストはその細い身体を抱き寄せた。
「俺としちゃ、こっちの方がいいんだがな」
腕の中に捕らえたマリカを見つめると、
「これも、嫌じゃない」
「じゃあ、こいつはどうだ」
返った答えに笑みを漏らして、なめらかな頬に唇を押し当てる。
すると髭が当たってくすぐったいのか、マリカは少し笑って。
「嫌じゃない」
「・・・なら」
そこで一端言葉を切ると、マリカは見上げる視線で「何?」と問う。
「俺の事は?」
少し低い声で問うと、マリカは恥ずかしそうに俯いて。
その大きな身体にぎゅっと抱きついた。
「・・・好き」
聞こえるか聞こえないか。
囁かれた短い一言は、今のジストにとって、一袋の金貨よりも砂漠の虎と言う二つ名よりも、価値あるもの。

「俺もだ。愛してるぜ、マリカ」


2005/04/07