||| 紙飛行機 |||
エイリークが中庭を散策していると、すっと横を何かが通り過ぎた。
視線で追うと、それは少し先の石畳の上に、ふわりと着地する。
紙飛行機。
石畳の上で白い紙で折られた優美な姿が、太陽の光に照らされてキラリと光る。
誰が飛ばしたのだろうと建物を振り仰ぐと、上階の窓でエフラムが手を振っていた。
「兄上」
何をしているのですと続けようとすると、エフラムが慌てて唇の前で人差し指を立てる。
そういえば、今エフラムは史学の講義の時間のはずだ。
講師が席をはずしたのを幸いと、サボっているのだろう。
エイリークが笑みを漏らすと、エフラムがこちらを指差しているのに気付いた。
暫しその意味を図りかねていると、ふと先ほどの優美な姿を思い出す。
その白い機体を見つめて、エフラムの方を見上げると、その通りとばかり頷いている。やはり紙飛行機を拾えという事らしい。
エイリークは石畳の上で羽根を休めるそれに歩み寄ると、手の中に収めた。
何か書いてある・・・?
そっと折り目を解いて、そこに書いてある文字に目を走らせる。
さして長くはないそれを読み終えたエイリークは、勢いよく高窓を見上げた。
「兄上!サボっていると先生に叱られますよ!!」
口元に手を当てて大声で叫ぶと、エフラムが慌てふためく。
その直後、背後からぬっと出て来た手がエフラムの襟首を掴んで、その身体を部屋の中に引きずり込んだ。
その様子を笑顔で見送って、エイリークは手にした紙に視線を戻した。
もう一度綴られた言葉を眼差しでゆっくりと追う。
すると頬に朱が差して、自然と口元が笑みを刻む。
何度となく読み返すと、それを大切そうに抱きしめて、エイリークはもう一度エフラムのいた窓辺を振り仰いだ。
当然そこにエフラムの姿はなく、開け放たれた窓から僅かに部屋の中が窺えるだけだ。
自分のせいで今ごろ講師に絞られているだろうエフラムを思って、エイリークは笑みを漏らした。
だって仕方がないではないか。
とてもではないが、こんな顔見せられない。
とろけるような笑みを浮かべて、エイリークはエフラムの放った想いを、再び白い優美な姿へと戻すと、胸元へしまう。
もう少ししたら、講義に辟易しているだろうエフラムを助ける為に、お茶でも持っていこう。
―――そっとこの恋文の返事を忍ばせて。
2005/03/03
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