||| きっかけの話 |||
「えいっ・・・やあ!」
気合と共に槍を繰り出す。何度も、何度も。
アメリアは時間があると、いつもそうやって戦い方の練習をしている。
少しでもみんなの手を煩わせたくない、役に立ちたいと思っているのだろう。
ロスはそんな姿を見るたび、自分もがんばらなければと思う。
「よし、俺もいっちょやるかな」
アメリアの様子を遠くから見守っていたロスがその場を去ろうとすると、突然強い風が吹きつける。
「きゃあっ!」
アメリアの悲鳴をに慌てて振り向いたロスは、思わず目を見開いた。
風に閃くスカートから、ちらりと覗く純白の下着が目に飛び込む。
あっと思って慌てて視線を背けるがもう遅い。
その光景はしっかりと目に焼きついてしまっている。
自分の意思とは関係なく、バクバクと跳ね上がる鼓動にうろたえていると、
「アメリア、がんばるよね」
突然声をかけられて、ロスは危うく大声を上げそうになる。
「ユ、ユアン!?いつからそこに?」
「さっきからだけど」
「じゃ、じゃあ・・・お、お前も見たのか」
「うん、白だったね」
ロスはすっかり挙動不審になっているというのに、ユアンは邪気のない笑顔で言う。
「ん?ロス、顔が赤いよ。ひょっとして・・・意識しちゃった?」
「ばっ、ばかやろう。あ、アイツは俺の妹・・・みたいなもんで・・・だなぁ・・・」
「・・・どもってるし」
「う、うるせぇ」
ロスは真っ赤な顔でそっぽを向く。
どうやら隠し事は出来ないタイプらしい。
「ふーん、へー、そーか」
何やら一人で納得した様子のユアンは、いきなりぶんぶんと手を振る。
「おーい、アメリア!!」
「わ、バカ、お前・・・」
ロスは大声でアメリアを呼ぶユアンを慌てて止めようとするが、すでに遅かった。
二人に気がついたアメリアが、笑顔でこちらに走り寄ってくる。
「あれ、ユアンにロス。こんな所でどうしたの?」
「うん、アメリアを探してたんだ。ロスもたった今通りかかったんだ。ね、ロス?」
「お、おう」
『たった今』の部分を心持ち強調して言うユアンに、ロスは明後日の方を向いたまま頷く。聡い者ならその不自然さに気付いたかもしれないが、幸いにもアメリアは気に止めた様子はない。
「ねえ、アメリア。これからちょっと街に行かない?ちょっとほしい物があるんだ」
「うん、いいよ。じゃあ、ロスも一緒に行こうよ」
アメリアがロスの手を握る。それはいつもならなんとも思わない事なのに、ロスは思わずその手を振り払ってしまった。
不思議そうな顔をするアメリアに、ロスは思わず視線をそらす。
「あっ・・・俺はやめとくよ・・・」
本当にロスは良くも悪くも隠し事が出来ない。
なんとなく気まずい雰囲気が漂い始めた所で、ユアンがそれを断ち切るようにアメリアの手を取った。
「じゃあ、行こうアメリア」
「うん。・・・じゃあね、ロス」
二人は手を振ると、楽しそうに話しながら街へと続く道を歩いていく。
ロスがそんな二人を複雑な気持ちで見送っていると、そっと振り返ったユアンがバカだねと言う顔をする。
そんなの自分でもわかってる。
今の自分を一番腹立たしく思っているのは自分なのだから。
ロスはまだアメリアの感触の残る手をじっと見つめる。
さっきまでと変わってしまった何かを振り払うように、ぎゅっとその手を握り締めた。
<お題7 ちらりと見えた下着>
2004/12/26
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