||| 甘い口付け |||
この日、エフラムは久しぶりにフレリアを訪れていた。
ヘイデンに挨拶をしていると、エフラムの来訪を聞きつけたターナが飛んでくる。
「エフラム、会いたかった」
「これ、ターナ」
ヘイデンはエフラムに飛びついたターナをたしなめるが、その眼は娘の姿を微笑ましげに見つめている。
「だって久しぶりに会えたんですもの。ねぇ、お父様。もう硬っ苦しい挨拶なんていいでしょ?エフラム、私の部屋に行きましょうよ」
ぐいぐいと手を引くターナに、エフラムが眼で許可を求めると、ヘイデンは笑みを浮かべたまま黙って頷く。
エフラムは軽く頭を下げると、ターナに手を引かれるまま謁見室を後にした。
「ここが私の部屋よ。入って、入って」
手を引かれて案内された部屋は、イメージ通りのかわいらしい部屋だった。
白とピンクを貴重とした配色に、ぬいぐるみや小物などが溢れている。
「今お茶を入れてくるから、ソファーに座って待ってて」
機嫌良く出て行くターナを見送ると、エフラムはかわいらしいピンクのソファーに腰を下ろした。
が、・・・なんというか落ち着かない。
このピンクとレースに溢れた部屋に、自分はなんと不似合いなことだろう。
早くターナが戻ってこないものかと所在無げに視線をさ迷わせていると、ふと目の前のテーブルに置かれたガラスの菓子入れが眼に止まる。
何となく蓋を開けてみると、一口サイズのチョコレートがいくつか入っていた。
エフラムは暇つぶしにとチョコレートを口に放り込む。そして退屈そうにソファーにもたれたエフラムは、何度か口を動かして思わず笑みを浮かべた。
「うまいな」
別に甘いものは好きでも嫌いでもないが、このチョコレートは次々手が伸びてしまいそうなほど美味しい。上機嫌で次々とチョコレートを頬張っていると・・・。
ガチャーンという食器の割れる音が響くのと、エフラムが最後の一粒を口に放り込むのがほぼ同時だった。
エフラムが視線を向けると、お茶のセットを乗せたお盆を取り落としたターナが、わなわなと手を震わせながらこちらを見ていた。
つかつかと歩み寄ってきて、菓子入れが空なのを見ると、涙目でキッとエフラムを見上げる。
「エフラムったら酷い!そのチョコレート、なかなか手に入らないから、大切に取っておいたのにっ!」
ターナの剣幕に、さすがのエフラムも思わず一歩退く。
「すまない、ターナ。うまかったもんだからつい・・・」
「だからって全部食べなくてもいいでしょ!ずっといつ食べようかって楽しみにしてたのに・・・っ」
ターナはエフラムのバカバカと繰り返しながら、ぽかぽかとその胸を叩く。
そんなターナを困り果てた顔をして見下ろしていたエフラムだが、ふと何か思いついたのかその名を呼んだ。
しかし何度呼びかけてもターナが答えないのを見て取ると、エフラムはターナの顎に手をかけて上向かせる。
キッと見上げてくる視線を黙殺して、エフラムは有無を言わせず唇を合わせた。
思わず目を見開いて動きを止めたターナの口内に、するりと舌を滑りこませる。
正気に返ったターナは、こんな事で誤魔化されてなるものかと、すかさず抵抗しようとしたが、触れ合った舌から広がる甘い味に、思わずそれも忘れてうっとりと目を閉じる。
ターナはチョコレートの甘さに、エフラムはその唇の甘さに酔う。
そしてそれは次第に口付けの甘さに変わっていく。
しばらくして、ようやく唇を離した二人は、甘い吐息をもらした。
「どうだ、チョコレートの味は?」
「・・・よく、わからなかったわ?」
ターナは頬を薄紅色に染めてエフラムを見上げると、ぎゅっとその胸元を掴んだ。
エフラムはその視線の意味する所を悟って口元をほころばせると、求めに応じるように再びその甘さを伝えた。
<お題4 チョコレートが溶けるまで>
2005/01/07
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